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建築家・木原千利×施主が語る、豊かな自然に囲まれ、季節の移ろいを感じる暮らし

六甲山系に抱かれるような住宅地に建てられた「楷(かい)の家」。タヌキもあらわれるというほど、自然環境に恵まれた立地です。海外生活が長かったKさんご夫妻は、「自然豊かなゆったりとした空間で、子どもをのびのびと育てたい」という想いがありました。また、海外で和の文化のすばらしさを再認識し、日本では季節の変化を感じながらの暮らしを望んでいました。

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Kさんご夫妻の依頼を受けた建築家・木原千利さんは、「この敷地を最初に見たときは、これほど環境に恵まれた場所で設計できる喜びを感じた」と言います。Kさんご夫妻と木原さんに、この住まいについて話をうかがいました。(H:ご主人、W:奥さま、木原:木原千利さん)

ゆったりとした空間で子育て

H:海外でも住んでいたのは都会ではなく、豊かな自然の中のゆったりとしたエリアでした。日本でも同じような環境で、子どもをのびのびと育てたいと考えていました。

W:海外にいたからこそ、逆に和の魅力や素晴らしさを感じることができたと思うんです。障子や格子などの線、和の繊細さや季節の移ろいを感じながらの暮らし。そうしたものに縁がなかったので、あこがれていました。日本の良さを感じながら暮らしたいとずっと思っていました。

木原:ここは六甲山系の中腹で、自然豊かで眺めもよく、緑に囲まれた非常に環境のよいところです。ご夫妻は、最初から自分たちのライフスタイルをきちんと考えて、この敷地を選ばれたわけですね。

H:まわりに何も建たないというのでそれが気に入って選びました。このLDKの空間も一部屋を広めにし、それから天井高にもこだわりました。無茶をいって困らせたのではないでしょうか。

木原:ここに最初に案内していただいたときには、眺望の確保とリビングの天井を高くしてほしいとの要望だったと思います。高さのバランスを崩さず、自然の中に溶け込むようにしたことと、法規制に対応する勾配屋根をデザインすることが大きなテーマになりました。結果として、この大自然の中では少しボリュームがあっても大丈夫でした。リビングの先にはテラスを設けて、谷側に向けて大きく開いています。緑を介して山々の眺望を確保できましたね。それに対しての和室の棟は低く抑えて、和の持つ静寂な空間になったと思います。

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1階LDKは一体的な空間に。中央の柱が安心感をもたらします。

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天井を高めにした居間は3方に開口を持ち、前方のテラスにより、
一層広がりが感じられます。床暖房や薪ストーブで冬の対策も。
大自然に囲まれた環境を生かし、プランニングされた住まいです。

ナチュラルな素材の質感がうれしい

W:とにかく広々としていて、おそらくこの住宅の実際の面積以上の広さを感じられていると思います。カーテンを閉め切ってしまうと、いかにこの家が狭いかを感じます。視線を導く木原先生の手法で、外の空間も自分たちの家であるかのように取り込んでいて、すごく広いところにいるように感じるんですね。

H:使っている素材の色合い、質感もすごくナチュラルで、自然となじみます。

W:この家を訪れる友人がまずほめてくれるのが、この壁です。特に外国の友人が。

H:この壁は和風にも見えるし、洋風にも見える。粗いけれど光沢があって、天気によってさまざまな表情になります。

木原:これは、砂とプラスターに少し色子を入れて色を調合し、それを左官屋さんが鏝の表情が残るような仕上げにしているんです。工業製品と違って、そのときの職人さんの具合によって微妙に表情が違うんです。そして、とても柔らかい表情になります。職人さんが心を込めて手がけたという痕跡を感じるのは、とても大切なことだと思います。私たち設計者がこだわってつくっているという姿勢が職人さんにも伝わると、それが空間に現れます。

風水にも配慮して

W:実はこの家は風水についても徹底しているんです。木原先生は大変だったと思いますが、風水上、どこも悪くないようにしてもらいました。

木原:風水を考えて無理をしたようには見えない、と思います。

W:子どもが遊んでいる様子を見ながら家事をしたいと思っていましたので、一体の空間としてオープンキッチンにしてもらいました。

木原:オープンキッチンの他に、2階の眺めのいい場所に浴室・洗面をつくって欲しいとの要望でしたね。居間の上にあたるので、建築的・技術的には苦労したところです。

H:2階の寝室に洗面・浴室が隣接しているので、すごく生活がしやすくなっていますね。

子どもたちも落ち着く和室

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W:和室についてはお茶ができるようにという希望がありましたが、デザインについては木原先生にお任せしました。

木原:日本の和室は水平に開かれてて、なおかつ自然と一体となる空間に特色があります。この和室の場合、非常に湿度の高い敷地であることと、虫の進入を防ぎたい思いから、一部を除いて窓をFIXにしています。そして障子は、壁の中に納めることにして、水平に開ける空間にしたのです。LDKはボリュームを感じる開口の空間であるのに対して、和室の開口は視線を下げて、窓の高さを抑えた空間をつくりました。天井は方形にして和紙を張り、モダンな空間にしています。

W:あの和室は、この居間の明るい広がりとは違って、ちょっと暗いですね。ふだんの生活ではあまり踏み入れることのない場所ですが、入った瞬間に空気感が違うので、気持ちが変わってきます。私たちにとっては、神聖な場所になっています。お友だちの子どもが来たときに、和室でお抹茶体験をしてみると、小学生の子が「落ち着く」というんです。「足が痛いだろうから、居間で飲んでもいいよ」といっても、ここで飲みたいと。

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和室の床の間は洞床にして、右手の袖壁を塗りまわしています。踏込床として、地窓に障子を建て込み、地板は肥松で仕上げています。

新しい手法の和室だからなじむ

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木原:今までのような昔の和室の空間は、子どもはなじまないように思います。この和室では精神的なものをうまく取り入れ、子どもたちがその空間に何かを感じ、身体がすっとなじんでいるのだと思います。そして、和室に季節ごとに飾られるものの変化に気づいていく…、設計者としてこういう面も大切にしたいと思いますね。

W:この和室は、季節ごとの和の行事に使っていて、おひな祭りのときには、ここでちらし寿司を食べたりしています。

木原:日本の季節ごとの行事をすべて行うのはたいへんですが、折に触れて和室を使い、そこで感じるというのは大切なことですね。

W:私も和室に座ると、疲れがとれる感じがします。今は職人さんたちの頑張ってくれた痕跡、木原設計の方々の人柄なども含めて、この家のすべてに愛情ややさしさを感じて生活しています。

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玄関からホールを通して和室前室、そして和室の向こうに
樹林の緑を見通すことができます。

設計監理:木原千利設計工房
     大阪府大阪市北区大淀南1-6-19
施工:明石土建工業(兵庫県明石市)
作庭:青木保次郎

(photo/松村芳治)

木原千利氏設計の「楷の家」を掲載した「和モダンvol.4」は完売していますが、「和モダン」シリーズとして、現在「和MODERN13」まで発行しています。各テーマによる特集をはじめ、建築家や地域の工務店の住宅事例をたくさん掲載しています。



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