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近代和風建築を代表する、豪農風・書院・数寄屋を調和させた「遠山邸」

「和風住宅」では、日本を代表する名建築を掲載しています。今回は「和風住宅24」(2019年7月発行)から「遠山邸」(埼玉県川島町)を紹介します。

豪農風・書院・数寄屋を破綻なく調和

遠山邸は昭和初期に建てられた近代和風建築を代表するもの。豪農の邸を思わせる東棟、書院造りの中棟、数寄屋造りの西棟の3つからなり、それらが廊下でつながれています。貴重な素材や優秀な職人技術が用いられ、性格の異なるいくつかの要素を破綻なく結合して調和させています。

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中棟広縁。掛込天井にして、大広間よりも高さを抑えています。

最高の技術と材料で

まだ田園風景が残る埼玉県川島町に、遠山邸は静かな佇まいを見せています。旧日興證券(元SMBC日興証券)の創業者である遠山元一(1890~1972)が幼い頃に没落した生家を再興し、母・美似の住まいにもなるように、人手に渡っていた現在の土地を買い戻して建てた大邸宅で、2年7カ月を費やして昭和11年(1936)に竣工しました。

和風建築として最高の大工・左官などの技術を用い、全国から集めた今日では手に入らないような材料が使われています。その意味で、戦前の近代和風住宅の記念碑的な存在といっても過言ではありません。昭和45年(1970)から遠山記念館として一般公開され、平成30年(2018)には国の重要文化財となっています。現在まで80年を超える歴史を重ねながら、ほとんど増改築をすることなく、当初の姿を継承しています。

建築の総監督をつとめたのは遠山元一の弟・芳雄です。たいへんな趣味人であり、建築についての知識も深かったそうです。茅葺きの仕方について詳しいものがいないと知ると、自ら屋根に上って範を示したほどだったといいます。大工棟梁は中村清次郎、設計は室岡惣七。一方で、住宅設備も充実していました。

当初の計画は約2500坪の敷地に40~50坪の主屋というものでした。それが二転三転して規模が広がり、建坪200坪を超える大工事になりました。総工費は当時の金額で60万円(現在の価値で30億円程度か)。もとより、遠山元一も最高の建築を実現するために、金額は問題とはしなかったようです。

この邸宅のレベルの高さは芳雄の情熱によるところが大きいといいます。全国から広く情報を集め、費用を顧みず最高級の銘木を買い集め、細部の意匠に至るまで詳細な検討が行われて進められました。大工・左官など職方も高い技術を駆使して、これに応えたといいます。当時、埼玉では目にすることができなかった水洗トイレや給湯など最新の設備も備えて、母親に不自由のない暮らしをしてもらおうという意図もうかがえます。

豪農風・書院・数寄屋を3つの棟であらわす

遠山邸は東棟・中棟・西棟の3つの棟を渡り廊下でつないでいます。東棟は関東の豪農の邸を思わせる茅葺屋根。もともと豪農であった先祖伝来の家を復興させる意味を持たせています。車寄せのある来客用表玄関では、大きな鞍馬石の沓脱石から式台に上り、取次の左右には控えの間があります。畳廊下を介して内玄関、18畳の囲炉裏の間。坊主畳が敷かれた囲炉裏の間は総ケヤキ造り。簡単な接客にも使われたようですが、4つの異なる天井が印象的です。

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茅葺屋根の東棟玄関。

畳廊下をたどると中棟。貴顕の来客を接待するための格式ある書院造りの大広間(18畳)を中心に据えています。書院欄間には桐の一枚板に七宝花菱浮彫りが施されています。畳敷きの広縁はアメリカ製ガラスを用いたガラス戸が囲み、吉野杉の桁支えています。(中略)

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中棟にある来客を接待するための書院造りの大広間。

西棟は数寄屋造りとなっており、8.5畳、7畳、12畳の座敷が雁行するように設けられています。この邸宅の各室の天井にはそれぞれ異なる形や材料が用いられていますが、8.5畳和室の杉杢目と網代の組み合わせは斬新。また左官技術も西棟の見どころです。(中略)

3つの棟を破綻なく統合

このように遠山邸には様々な技法・意匠が用いられています。貴重な素材や優秀な職人技術をふんだんに用いて、日本の伝統的木造建築を踏襲していることはこれまでにも触れたとおりですが、しかしそれ以上に遠山邸で注目したいのは建築様式の異なる3つの棟を破綻なく統合している点です。豪農風であたり、書院風・数寄屋風であったりする各棟が形式的な安易な折衷とならないよう、絶妙な距離感でつながれています。

見事な調和は建築技術と細部の意匠がいずれも伝統に忠実で、手を抜くところなく十分に吟味された材料がその持ち味を保っているためだと思われます。竣工から80年以上経過した今日でも、柱と土壁の間に隙間が見られないなど、施工の確かさが随所に見られます。遠山邸には、昭和初期の和風建築の一つの完成形を見ることができるといえるでしょう。

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東棟・中棟の廊下は畳敷き。

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東棟の囲炉裏の間。柱や差し鴨居などは総ケヤキ造り。
障子の桟も太めで田舎風。

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南側の庭から見る中棟。中棟の1階は、書院造りの大広間。
右手に茅葺屋根の東棟が見えます。

(写真/志和達彦)

遠山邸(遠山記念館)
所在地:埼玉県比企郡川島町白井沼675
https://www.e-kinenkan.com/
※現在、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、併設している美術館は休館中。「邸宅・庭園」については公開しています。
詳細はHPにて確認してください。

遠山邸は「和風住宅24」(2019年7月発行)に掲載しています。この号の特集は「内と外」。軒先と軒下の建築文化や、建物から庭へつながる障子が切り取る風景など、室内にいながら屋外を愉しむ空間を紹介しています。ぜひご覧ください!



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