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京町家に必ずある中庭は、生活にうるおいをもたらす存在。

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生活の必要性に文化的価値を付け加えた庭

京町家には必ず、中庭(坪庭・前栽)がつくられています。京町家作事組に所属し、京町家再生に関わる造園を数多く手がけてきた木村孝雄さんに、その庭の特徴について聞きました。
(上の写真は、釜座町町家の庭(photo/永野一晃)

京町家の庭の必要性。

京町家には、玄関と座敷の間の坪庭や座敷の奥の前栽など、必ず庭がつくられています。それは密集する都市の中で必然的、自然発生的に形成された空間です。立て込んだ街中の生活の中に、自然のうるおいをとり込む工夫がそこにはあります。通風換気・採光とともに、精神的なうるおいが得られる場所だったのです。「鰻の寝床」と呼ばれる京町家の敷地に、もう一部屋つくれるスペースがあるのに、あえて庭をつくったのです。エアコンがない時代、快適に暮らすには外気に頼らざるを得なかったことが、庭の発展を生み出しました。特に夏は、庭によって涼感を得ることができました。

ただ、そうした機能面だけではなく、そこに文化的な価値が付け加えられてきました。京都人はそれを感じ競ってきたのです。社寺や茶室などの庭を見て、目が肥えていたからかもしれません。見てきた庭を自分の家でも見られるようにしたのが、京町家の庭になっていったのでしょう。家の中に理想郷をつくってきたといってもいいかもしれません。

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近代庭園の黄金時代は明治後半から。

いま京都で見られる町家の庭の多くは、明治後半から昭和初期・戦前にかけてつくられたものです。茶の湯の大衆化が進んだこともあり、裕福な商家では江戸時代から露地風の庭をつくっていたようですが、職人の家にそんな立派な庭はなかったと思われます。通風や採光のため、構造上必要であったけれど、作業場や物干しの場としての実生活の用途もあり、立派にしつらえられたものではなかったと思われるのです。

京町家の庭が発展したのは、南禅寺界隈の別荘群が小川治兵衛(*)などによってつくられた時代と重なります。新興財閥や政治家などが財力をもち余裕ができて、立派な庭をつくるようになった時代です。山懸有朋(やまがた ありとも)の無鄰菴(むりんあん)(京都・南禅寺前)などがその最初で、明治20年代につくられました。世の中が安定し、日清・日露戦争を経て、庶民にも余裕ができた時代だったからでしょう。京町家の建物も、いま残っているものの多くはその時代にできたものです。

その時代には、名物灯篭や蹲踞(つくばい)の銘品、その本物に対しての写しなども大量につくられました。地方の大邸宅の庭園なども、作庭情報・技術が伝播したことにより、明治30年代以後につくられたものが多いようです。

また、私の独断ですが、庭の発展には生活の様式の変化が大きく影響したのではないかと思います。特にガラスの普及が果たした役割は大きいと思います。明治末期以降、庭の景色がガラス越しに見えるようになったことから、庭の需要が高まったと思います。

*小川治兵衛(おがわじへえ・1860~1933)近代日本庭園の基礎をつくったとされる作庭家・庭師。「植治」とも称される。

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茶室の路地庭のエッセンス。

江戸時代から続く大商家などには茶室を併設している家も多く、座敷から眺める露地がつくられました。それは庶民の憧れでした。そんなところから、露地を構成している要素(灯篭や蹲踞・手水鉢・飛び石・苔など)がスタイルとして京町家の庭に受け継がれたのです。また、京都を取り巻く豊かな自然により、自然石やさまざまな樹木の使用が可能であったことと、石工・石造や垣・庭園などの優れた技術が存在していたことも露地庭をつくることを可能にしていたのです。露地は本来、茶室に入るまでの庭であり、室内から眺めるものではありません。しかし、京町家では眺めるための庭になっていきました。そして、露地庭のエッセンスがコンパクトにまとめられ、座敷からの視点で庭がつくられるようになりました。

露地では四季を通じて景色が変わらない常緑樹が多く使われます。しかし、京町家では季節感のあるモミジなど落葉樹や花の咲く植物を植えるなど、生活の場として、眺めても心地よい場所になることを考えるようになりました。

住まいの庭であること。

京町家の庭に限った話ではありませんが、住まいの庭は毎日眺めるものだからあまり奇抜なことはしない方がいいと思います。落ち着き、気持ちが安らぐように、あまり主張が強すぎるのは考えものです。しかし、その中にも楽しみがある仕掛けをつくってみるのがいいでしょう。

そんな中で、京町家の庭にある仕掛けのひとつが水を感じることです。蹲踞(手水鉢)は、水の良さを最小限の装置で見せるもの。夏暑い京都では、水の涼感は大きな魅力です。水をきれいに保ち、漏らさないのは難しいことですが、その点、蹲踞は管理しやすい仕組みです。

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京町家の庭は、伝統的和風・モダンな和風・洋風などさまざまなスタイルに多様化しています。自然志向がある一方、実用性が高いものへの志向も見られます。多くの京町家が取り壊されていく中、京都の文化的基盤のひとつである日常的な自然とのつながりを維持していくためにも、庭を連続させた緑のネットワークがいまこそ必要とされているのです。

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木村孝雄(京町家作事組、(株)京都景画 代表取締役、平成27年度「京の名工」)
京町家作事組(きょうまちやさくじぐみ)/京町家の再生に実際に携わる職人集団。京町家再生を生きた教材として伝統工法を継承するのが狙い

(photo/永野一晃)

「京町家の庭」の記事は「和MODERN11 ~庭から考える家づくり」に掲載しています。

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