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古民家の知恵を未来につなぐ、松井郁夫設計の「南房総の家」

千葉県の房総半島は古民家が多く残り、それを買い取って移住する人や別荘として利用する人も多いエリア。この住宅もその一つで、施主は別荘として使うことを希望していました。改修を手掛けたのは、古民家に造詣が深く、経験豊富な建築家・松井郁夫氏です。

室内開口_ph

リビング・ダイニング。構造上、抜けない柱を残しています。
角の石張りのスペースはストーブ置き場。

築百年の古民家

設計に先立って、松井氏は住宅を調査しました。間取りは土間を備えた田の字型プランで、式台玄関を増築。骨組みは石場建てで、土台と足固めを併用しており、屋根は寄棟で小屋組みは丸太組みに束を立てて構成していました。土台は健全でしたが、足固めがシロアリに食われて、柱と足固めの接合に使ったボルト廻りが結露し、柱に腐朽が見られました。その他は柱、梁ともによい状態でした。

外部は瓦葺き屋根に、壁は杉板の杉板下見板張り。内部は小舞泥壁の上に漆喰塗り。杉板は傷んでいましたが、屋根瓦は問題ありませんでした。ただ、設備は使えない状況で、台所は煤で汚れいてる状態でした。

地盤がよく、建物も平屋なので、骨組の劣化部分を補修すれば、耐震性能も問題ありませんでした。住むために問題だったのは温熱環境。既存は新築住宅の半分にも満たない断熱性能で、冬は厳しい環境が予想されました。

改修後外観_ph

石場建てを生かした耐震補強

改修にあたって、松井氏は建物を骨組みだけの状態に解体し、床下の腐朽部分を補修。結露の原因となったボルト金物を木栓に変えるなどの改良を行いました。その上で「限界耐力計算法」を用いて、改修設計の方針を定めました。この計算法は伝統構法を正確に評価することができるため、建築基準法では認められていない石場建てと土台併用足固めによる耐震補強ができます。この土台併用足固めは、骨組みの粘り強さを生かす手法として、阪神・淡路大震災以降、松井氏が取り組んできたものです。明治40年に同じ発想がなされていたことに松井氏は驚いたそう。

板の間に改修_ph

和風造作を生かしながら板の間に仕上げた寝室。

間取りに関しては、骨組みの劣化部分を補修したうえで、構造上抜けない柱を避けるように再構成しました。特徴的なドーム状の室内開口部は、抜けない内部の柱を利用してつくられています。また、山側からの湿気を避けるように窓を小さくしました。一方で南面に濡縁を設けて、外部と内部のつながりを強化しました。

温熱環境に関しては、計算を行って計画を立てましたが、予算の都合で開口部をペアガラス入りのアルミサッシに取り替え、最低限の断熱材を付加するに留まりました。内壁に関しては、既存の土壁を生かし、吸放湿性と蓄熱性を維持し、新たに漆喰を塗りました。設備はすべて新しくし、露天風呂のように開放的な浴室を設けました。

納屋を浴室_ph

こうして、百年前の丁寧な仕事を生かし、建物に新たな活力が吹き込まれました。「昔の仕事をいまに伝え、未来におくることができたと思う」と松井氏は満足げに語ります。

室内漆喰塗り_ph

LDKは、それぞれの居住空間をアーチでつないでいます。

足固桧交換_ph

足固めは新たにヒノキ材に交換。
ボルトの代わりに木栓で締めています。

設計:㈱松井郁夫建築設計事務所/まちづくりデザイン室
施工:高木建設
構造:木造平屋建て
所在地:千葉県南房総市

松井郁夫氏設計のリノベーション事例は「和風住宅vol.22」に掲載しています。このシリーズの最新号「和風住宅25」(2020年8月発行)も絶賛発売中です!和の建築の魅力がつまった1冊となっています。ぜひご覧ください。

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