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住まい×健康の専門家が解説!高断熱住宅で暮らすメリット(前編)

高断熱住宅で暮らすとどんなメリットがあるのか。どうして高断熱住宅に住むべきなのか。住まいと健康、そして断熱性能の関係について調査・研究を続けている近畿大学建築学部学部長の岩前篤教授に解説いただきました。


健康リスクが減り症状が改善。生活が変わり暮らしやすい家に

高断熱住宅は家が暖かく、涼しくなります。高断熱化の最大のメリットは、健康リスクを軽減し健康長寿に貢献することです。日本の家はこれまで「快適」を追求し、健康長寿という視点が抜けていました。快適を追い求めても健康長寿を得ることはできません。

以下に「採暖」と「暖房」の違いを例にとって解説しましょう。

高断熱化が遅れた日本はいまだに「採暖」が中心


日本は欧米と比べると住宅の断熱に関する基準や法制度化が遅れています。冬場に住宅の寝室を測定したら多くが10℃前後だった、という調査結果がありますが、これは断熱材が入っていない家や断熱性能が低い家が大半だからです。

このように室内が寒いと「暖房」が必要になりますが、日本で行われてきたのは「採暖(さいだん)」です。こたつやストーブなどで、人がいる場所だけ局所的に「暖」を「採」るのが「採暖」です。

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「採暖」によって「暖かさ」という快適を得ることはできます。ですが、家全体の室温が高くないと、こたつから出たら/ストーブの周りから離れたら寒くて不快になるだけでなく、温度差による「ヒートショック」などの健康リスクも高まります。

「暖房」は本来家全体を暖めること(ルームヒーティング)で、欧米の住宅では家全体の「暖房」が当たり前です。人がいない部屋でも暖房し続けるのが正しい。ですが、家全体を暖房し続けると暖房費がかさむため、「採暖」のほうが暖房費を抑えることができます。このことも、日本で「採暖」が続けられている一因です。

ただし、家を高断熱化することで、室外の冷気が入ってくるのを防ぎ、室内の暖気が出ていくのを防ぐことができるため、家全体を暖房しても暖房費を低く抑えることができます。つまり、高断熱住宅にしてずっと暖房することで、家全体が常に暖かくなって「ヒートショック」などの健康リス
クを低減でき、結果として快適さを得ることもできるのです。

室内の温度差で心臓発作や脳卒中に
先ほどから出てくる「ヒートショック」について解説しましょう。

冬場、暖房の効いた部屋と、冷えたままの廊下やバス、トイレとの温度差は15℃ほどにものぼります。また、夜や早朝などには、布団の中の温度と室温との差が20℃近くにもなり、布団から抜け出すのがつらくなります。

この温度差に急激にさらされることは人の体にとって大きな負担で、心臓発作や脳卒中を引き起こすリスクが高まります。これが「ヒートショック」です。夜中に目が覚めてトイレなどに行こうとして、この「ヒートショック」で亡くなってしまうケースは後を絶ちません。

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低温で免疫機能も低下。重ね着はストレスに
「ヒートショック」は寒い住宅がもたらす健康リスクの氷山の一角に過ぎません。身近なところでは、室温が低いと肩こりが増加するというデータがあります。

室温が低い部屋で、特に寝ている間に冷気を吸い込み肺が冷えると免疫力が低下します。これは大きな問題です。免疫力が下がれば、当然ながら風邪などをひきやすくなります。インフルエンザの集団感染が問題になっていますが、学校や住宅の断熱性能が低いこととの関係性もあると言われ、調査が行われる予定です。

免疫力の低下は重ね着で防ぐことはできません。重ね着も「採暖」のいち方法ですが、肌や身体にストレスを与え、肩こりの原因にもなります。

高断熱住宅への引越しで健康状態が大きく改善
一方で、高断熱住宅に引越した家では家族の健康状態が改善したことが「スマートウェルネス調査」と呼ばれる国の予算を受けた調査によって明らかになっています。

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上図に挙げた諸症状を持っていた人を分母に、高断熱住宅に引越した後に症状が出なくなった人を分子にとった改善率を見ると、「ちゃんと断熱」した住宅に住み替えた場合で改善率は7割弱、「もっと断熱」した場合だと改善率は8割超に上りました。

その原因としては高断熱化による室温の維持、結露の改善などが考えられますが、断熱のグレードが上がるほど(高断熱化するほど)健康状態が改善している点は注目です。

高断熱化と室温、血圧の関係も明らかに
「スマートウェルネス調査」は継続して行われています。概要だけ紹介しましょう。健康リスクを引き起こす高血圧を高断熱化で改善できる可能性も見えてきました。高断熱住宅にリフォームし、室温が高くなるほど入居後に血圧が低下しているという結果が出ています。

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また、起床時の室温が20℃から10℃に下がると、60歳男性で血圧が平均8.5mmHg、80歳男性で平均11.2mmHg上昇したという結果も。高血圧で降圧剤を飲んでいる方も多いですが、降圧剤で下げることができるのは5mmHg程度とされ、高断熱化によって10mmHgの上昇を防止するほうが合理的でしょう。

民間の断熱基準「HEAT20」が目指す室温と断熱性能提示
どの程度高断熱化すべきかの目安となるのが私たち研究者が中心となって提案してい「HEAT20」(ヒート20)という民間基準です。健康長寿の観点で目指す室温を定め、その室温を実現するための断熱性能の数値を挙げています。

「グレード1(G1)」と「グレード2(G2)」の2つのレベルを提示していますが、先にグラフで示した高断熱住宅に引越し後の健康改善効果の調査結果をみると、G1レベルにまで断熱性能を高めると症状の改善率が顕著になっています(編集部注: 「だん」では目指したい理想の断熱レベルとしてG2以上を提唱しています)。

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国も省エネ基準を設けていますが、それは義務付けされていないうえ、健康長寿の観点で見ると、断熱性能など物足りない部分もあり、民間で基準を提唱しています。

医療費と光熱費の削減で高断熱化のコストは回収
断熱性能を高めるほど、冬場でも室温を維持しやすく暖房も少なくて済みます。一方で、断熱性能を高めるには断熱材を増やしたり、樹脂窓などの高性能な窓を採用したりと、コストがかかります。

しかし、このコストは惜しまないでいただきたいのです。健康を損なってもいい、早く死んでもいいという人はいないはずです。健康長寿に勝るお金の使い道はほかにあるでしょうか。

健康なまま長生きできれば、医療費や健康維持コストを抑えることができます。これはみなさんの家族はもちろん国の財政にとっても大きなメリットです。

また、住宅を高断熱化すると、前述のように暖房や冷房を押さえることができるので、光熱費が削減できます。高断熱化のコストは、この光熱費の削減効果によって30年前後で回収することができるはずです。医療費の削減効果をプラスすると、15年程度で回収することができるとシミュレーションされています。

高断熱住宅のメリットとして光熱費の削減がうたわれていますが、高断熱化の目的はあくまで健康長寿であり、結果として光熱費が削減でき、快適になるという点をご理解ください。(後編につづく)

※本記事は「だん02」に掲載されています

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