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温度と湿度とインフルエンザ予防の関係性は?教室の室温と健康の関係を徹底検証

2018年4月に学校衛生環境基準が一部改定されました。このガイドラインで何が変わったのか、近畿大学建築学部学部長の岩前篤教授に解説いただきました。

寒さは万病のもと
以前、住まいと健康の関係として、近年の様々な調査で明らかになってきた住まいの温度、特に低温の健康への悪影響について紹介しました。

今回はこれに続いて、もう少し詳しく紹介します。

寒さが体に良くない、と聞いても、ほとんどの人は当たり前だと思われるのではないでしょうか。冬が辛いのは当たり前、でも冬の寒さは厚着すればしのげる、こたつに入っていれば大丈夫と思われる人も少なくないと思います。実際、木と土と紙でできた家に住んできた私たちのご先祖はそうやって冬の寒さを克服してきたと言われています。ところがそうやって過ごしてきたことは本当ですが、決して克服してきたのではないことが、冬期の死亡率や家庭内事故の増加から明らかなのです。

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図1は様々な病気による死亡の実態ですが、注目していただきたいのは、ヒートショックとよく結び付けられる循環器系疾患(血の流れの不全)による死亡ではなく、それ以外の原因でも冬期にたくさんの方が亡くなっている事実の方です。以前にも書きましたが、ヒートショックで年間1万数千人が命を落としている、このことは確かですが、冬の低温の影響はそれだけではないのです。え、その十倍の人が命を落としている可能性すらあるのです。

危険なのは夏の高温より冬の低温
図2は6~9月の夏の時期に熱中症で亡くなった人の年次推移です。夏の暑いわが国では、熱中症の危険性がよく訴えられますが、救急搬送者は昨夏でも9万人を超えましたが、多くの方は迅速な手当てで平常を取り戻されています。熱中症による死亡者は2018 年の夏は1500人ほど、冬の低温による死亡者に比べるとはるかに少ないのです。

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ところで、寒さの健康被害について、日本の政府はどのように考えているのでしょうか。健康を司る厚生労働省の公式なメッセージとしては、「低温は健康障害の元」です。ただし、高断熱住宅で居住者の健康度が改善されるとは言っていません。その理由は、シンプルです。厚生労働省は住宅の性能と暮らしにおける日常の温度の関係を把握していないから、です。

以前ご紹介したように、海外ではイギリスのHHSRS(住宅の健康安全性の評価システム)、アメリカ各州の室温規定など、低温の健康障害の抑制のための施策が多数あります。どうやら海外の健康関係のお役所には建築の専門家がたくさんいるようです。

学校空調温度の下限目安が10℃→17℃に変更
そんなわが国ですが、実は驚天動地の出来事が2018年4月に起こりました。文部科学省が管轄する全国の小学校・中学校に、学校空調温度に対する指針の見直しの通知(29文科初第1817号平成30年4月2日)が出されたのです。これまで、学校の温度は「30℃以下、10℃以上が望ましい」とされてきました。極端に言えば、冬季は室温が10℃を下回らないと暖房が入れられなかったのです。

長い間、これは物事を学び取らなければならない児童にとって、少し過酷な条件ではないか、と指摘されてきましたが、これまで手付かずの指針であり続けていました。2018年4月の通知ではこの指針がいきなり、「17℃以上、28℃以下」と変更されました。10℃から17℃、大きな変化です。同時に、この変更の理由として「児童の健康を保護し、かつ快適に学習する上で」望ましいと明記されています。すなわち、「これまでの10℃では健康上望ましくない、17℃にあげることが健康上、重要である」ということです。

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この変化は大変喜ばしいことと受け止めています。現在、わが国の小中学校の施設は決して新しくなく、変化への対応に迅速なごく一部の地域行政を除き、建設コストと前例との差の低減のために、これまで同様の建物がつくり続けられています。熱損失と温度差の原因になる単板ガラスでさえ、採用され続けています。そのような中で、文部科学省の通達のもつ意味はとても大きく、温度の維持と運用コストの低減のために窓を含めた高断熱化がとても重要となってくることは必定です。

温度と湿度が感染症予防のカギ
また、この冬(2018~2019年)はインフルエンザが猛威を奮いました。筆者の職場でも同僚が毎日ひとり、二人と罹り、一時期は危機的な状況でした。インフルエンザの予防については、湿度を50% 以上に保つことが効果的とあり、特に加湿器の販促に利用されています。

この説の科学的根拠は1961年のHarperの研究「空気感染微生物の残存試験」にあるようです。1961年は筆者の生まれ年、日本では東京オリンピックの開催が決まって国内が沸いている頃、ずいぶん前のことです。そんな昔の研究で大丈夫なのでしょうか。そこで最新の研究成果を探してみました。

興味深い研究報告が2007年に見つかりました。その名も「インフルエンザウィルスの感染は湿度と温度に依存する」です。アメリカ・ニューヨークのマウントサイナイ医科大学の研究チームによるモルモット(関係ないですが、英語ではGuineapigs「ギニアの豚」と言います)を使った実験結果報告です。インフルエンザに感染させたモルモットを4匹、別々にケージに入れ、その風下の隣に感染していないモルモットを入れたケージを置きます。こうしてどれだけ感染するか、を試験したものです。ヒトと同じようにモルモットでもインフルエンザの症状は発症後4日で最も重くなり、それを過ぎると徐々に低下します。
 
20℃の結果は、古いHarperの結果におおむね一致し、(相対)湿度35%以下ではほぼ100%の感染率であったのに対し、湿度50%では25%まで低下しています。ただし、湿度65%では感染率が75%に上がっていて、必ずしも乾燥だけが悪いとも言い切れません(湿度80%では感染はありませんが)。温度を30℃にあげると感染率は0%でした。

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ちなみに、温度を5℃まで下げると、湿度50%以下でも感染はほぼ100%、湿度を50%以上に上げても感染率は50%までしか下がりません。また、感染後の症状の重さでも20℃より5℃の条件の方が重くなっています。

すなわち、この研究からはインフルエンザ予防には湿度だけではなく、温度を20℃程度以上に保つことが最も有効な対策といえます。

室温を正しく保つことがいろいろな点で健康の支えになるのではないでしょうか。

※本記事は「だん03」に掲載されています

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