建築家・堀口捨己による、建築と照明が一体となった美しくも大胆な「八勝館」
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建築家・堀口捨己による、建築と照明が一体となった美しくも大胆な「八勝館」

室内に入ると、庭園の景色が飛び込んでくるかのような八勝館。北大路魯山人(きたおおじ・ろさんじん)ゆかりの料亭としても知られていますが、「御幸(みゆき)の間」をはじめとして、伝統建築とモダニズムの融合を図った堀口捨己の設計でも知られています。

八勝館とは
明治10年代に材木商が別荘として建てた屋敷を、旅館業として大正14年に創業。現在は四季折々の庭園風景を望みながら、ゆっくりと懐石料理を味わうことができます。八勝館の名は、明治時代に雲照律師(うんしょうりっし)による禅語「八勝道」から由来。別説には、ここが丘陵地で八方に山々が眺められた景勝の地であったためとも伝えられています。

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南側庭園からの御幸の間の外観。
高床の形状が桂離宮を思わせます。

建築化照明の元祖・堀口捨己

近年、LEDの出現と相まって建築化照明(※1)が脚光を浴びるようになってきました。建築と照明が一体となり、すっきりとした印象が魅力です。この建築化照明をいまから68年前におこなったのが堀口捨己氏です。

堀口氏は1895年岐阜県生まれ。東京帝国大学建築学科へ入学し、その後大学院へと進学、近代建築史を専攻していました。ちょうどその頃、ヨーロッパを中心に各国で新しいデザインを目指すデザイン運動が興りました。例えば、ドイツでは表現主義、イタリアでは未来派、ウイーンではゼツェシオン、ロシアでは構成主義など。こうした世界的な動きに呼応して、日本では堀口氏が中心となり、分離派(ヨーロッパでいうところのゼツェシオン)を結成しました。そのメンバーの中には、後に日本で活躍する石本喜久治・森田慶一・滝沢真弓・矢田茂・山田守・周忠・岡村文象など、数多くの建築家が含まれていました。また、堀口氏は数寄屋建築や書院建築に関わる数多くの著作を刊行。『利休の茶室』では、日本建築学会論文賞を受賞しました。

※1)建築化照明
室内装飾の一部として、天井や壁に配置された照明手法。建築構造と一体化して照明器具を建築内に納める。

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御幸の間。床の間前から月見台越しに
庭園をのぞむことができます。

「御幸の間」設計の経緯

堀口氏が八勝館を設計するようになった経緯は、藤岡洋保氏が『表現者・堀口捨己―総合芸術の探究』(中央公論美術出版刊)内の堀口捨己の和風建築ー八勝館と礀居(かんきょ)を中心にーで述べています。

『1950年に最初の国民体育大会が名古屋で開催されるに際して、八勝館社長の杉浦保嘉(1892~1963)が行在所にということで、銘木を買い集めて自分で差配して建設をはじめた。それを知った東邦電力社長(当時)で茶人の松永安左ヱ門(1875~1971)がちゃんとした設計者に依頼した方がいいと助言したのを杉浦が受け入れ、松永と親交の深かった堀口が担当することになった』

八勝館で堀口氏が関与したのは、次の4室です。
①御幸の間、②残月の間、③菊の間、④桜の間。年代は御幸の間・残月の間が1950年、その他が1958年。

桂離宮のモチーフを多用

「御幸の間」の照明は天井照明と壁面照明とでも呼ぶべき照明の2つに大きく分類されます。いずれも障子のフィルターを透して、やわらかな光が室内に降りそそぎます。壁面照明の方は、和室において欄間がはめられていた部分を照明に替えたイメージです。この光は帯状に部屋全体を包み込みます。

一方、天井照明の方は部屋の端から端まで貫く光の帯をつくって、明るさを確保しています。このとき、障子は水平に張られます。「御幸の間」では、天井に「三渓園臨春閣住之江の間」の天井に使われている卍くずしの形の竿縁が配されていて、元々の竿縁の形態と合わさって複雑な形態となっています。また、襖は切金(きりかね)で、繻子(しゅす)織りかと思われる高級な材を使っています。切金のおかげでほとんど変色もなく、美しい色彩を保っています。

また、「御幸の間」のデザインコンセプトは桂離宮にあり、そのモチーフを多用しています。そのメインは月見台と笑意軒(しょういけん)。月見台は桂離宮と同じく広縁をもち、南側まで連続して景観が楽しめるようになっています。月見台の雨がかりの部分には簀子縁(すのこえん)になっていて、桂離宮に準ずる意匠です。一方、室内においては、桂離宮の笑意軒の丸い下地窓の形をモチーフとして多用しています。

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御幸の間の広間から次の間を見たところ。
天井の照明が光の帯をつくっています。

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南側の入側から月見台を見たところ。

壁面照明のグラデーション

「菊の間」と「桜の間」ですが、「菊の間」はすでにあった建物の改装、「桜の間」は新築です。天井照明と壁面照明は「御幸の間」と大きく変わりませんが、変わったのは本格的な掛込天井の採用と、壁面照明グラデーション。これは、壁面照明を上にいくにしたがって明るくしていくとか、途中の部分の明かりを消して暗い部分をつくる等。この方法を使うことによって、光のバリエーションの幅が格段に広がっていきます。

一方、掛込天井というのは、茶室でよく使われる手法ですが、天井が斜めに上がっていき、かなり上がったところでストンと下へ落ち、そのまま水平な平天井になります。その掛込天井を採用することにより、ダイナミックな空間が演出されることになりました。また、空調設備機器などを隠す場所としても有効でした。

「桜の間」では、今まで登場しなかった、明らかに洋風の円形の照明器具が使われています。使い方も今までと全く異なった使い方です。「残月の間」では、八畳の間に書院が付く残月写しです。他の部屋と同様に、壁面照明はありますが、天井照明はありません。その代わりに、和紙貼りの大きなペンダントライトが使われています。

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桜の間の掛込天井と建築化照明。
平天井部分の側面と底面に照明が
組み込まれています。

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桜の間の照明に使われた光のグラデーション。
上へ行くほど自然光が入りにくいため、
それを見越してグラデーションをつけたそう。

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入側から右に次の間・広間。左奥に月見台。
入側に面した照明もユニークな形状。

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残月の間。壁面照明のほかに、大きな和紙貼りの
ペンダントが使われています。

八勝館
所在地:愛知県名古屋市昭和区広路町石坂29
https://www.hasshoukan.com/

(写真/林 安直)

八勝館が掲載された「和風住宅23」(2018年7月発行)の特集は「数寄屋の魅力を探る」。日本の伝統的な和風住宅の事例をたくさん掲載しています。ぜひご覧ください!



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